「ウケ狙い」外交の危うさ
春原 「ウケ狙い」はジャーナリストだけでなく、政治家にも常に付きまとう危うさです。〇一年六月、小泉(前)首相の初訪米の会見取材後、私と同じくワシントンに駐在していた手嶋さんは早くも「小泉首相の日米同盟堅持路線はウソっぽい」とおっしゃっていましたね。今振り返ると確かに、小泉前首相は自分の人気取りのために、ブッシュ大統領との蜜月関係を利用しただけで、「日米同盟」そのものには貢献をしなかった。
『ジャパン・ハンド』に詳しく書きましたが、「逆V字論」というものがあります。クリントン政権までの日米関係は首脳同士が疎遠でも、下部の事務レベルでは連携する「V字型」だった。ブッシュ政権になると、「ジャパン・ハンド」の活躍で上から下まで密接な「I字型」になる。ところが、ブッシュ二期目に主だった「ジャパン・ハンド」が政権を離れると、つながっているのはブッシュ・小泉両首脳だけという「逆V字型」になってしまった。そういった日米関係の「空洞化」を埋め、再び「I字型」にするために、安倍首相はこれから大変な努力を要するでしょう。
手嶋 小泉前首相は自民党の派閥を壊してしまったため、世論を除けば自分の強固な支持基盤はなかった。そこで海の向こうの「ブッシュ派」を存分に活用した。要するに、彼は本来の外交をしたのではなく、アメリカ相手に「永田町政治」を繰り広げたと言っていい。だから、「日米首脳同士の関係がいい」イコール「日米関係がいい」ということにはなりません。
春原 「ジャパン・ハンド」たちも「空洞化」に懸念を抱いているものの、それを認めては自分たちの存在意義に関わる以上、「今は日米蜜月だ」と喧伝するしかない。ところがそういった彼らの苦渋に満ちた言い分を日本のメディアが何の検証もなく垂れ流す。それはメディアの力不足であると共に、「アメリカは日本を常に気にしている」と言われる方が心地よい読者や視聴者に対する「ウケ狙い」でもあるのです。
手嶋 今度の北朝鮮危機についても、「日米が一体となって対処」と伝えられれば日本人には気持ちがいいかも知れない。「アメリカの関心は中東にあって、東アジアにはない」などと率直に言われると、読者が離れていく(笑)。
春原 〇二年九月の小泉(前)首相の訪朝も、日本ではウケがいいですが、これは大きな間違いです。「首相の訪朝」という最高の外交カードを拉致や核、ミサイルといった問題に対してどう効果的に切るかを、同盟国アメリカと綿密に相談すべきだったのに、「独自外交」の美名の下にないがしろにされてしまった。
手嶋 日米同盟は「朝鮮半島」「台湾海峡」という二つの有事のシナリオのもとに成り立っている安全保障の盟約である以上、それらについて重大な現状変更が起こる時には、同盟国に知らせるのが「同盟の作法」であり原則です。
小泉(前)首相から直前になって訪朝計画を告げられたアーミテージ(元国務副長官)は、その温厚な性格からは考えられないほど不快感を露わにし、アメリカ大使館にいたCIA東京支局長を呼びつけ、訪朝の動きがつかめなかった責任を真っ赤な顔で追及したそうです。こういうことが続くと、アーミテージのような「ジャパン・ハンド」だけでなく、CIAその他、いろいろな関係者がメンツを失い、日米の「空洞化」はいたるところで進んでいきます。
春原 でも、仕掛け人である外務省の田中均アジア大洋州局長(当時)は、「自分はアメリカに伝えた」と主張しています。
手嶋 「自分の発言を注意深く聞いていればわかったはずだ」などというのは、同盟の相手国に対して、ありえない言い訳です。
春原 そういった日本側の言動一つ一つが、「ジャパン・ハンド」のメンツを失わせ、「空洞化」をもたらしています。イラク戦争における小泉(前)首相の姿勢にしてもそうです。二〇〇三年十二月のイラクへの自衛隊派遣の記者会見でも、「アメリカは大きな犠牲を払いながら努力している」、だから助けましょうといった情緒的なものでした。本来の同盟国であれば、「中東の不安定化が原油を始めとする国際経済に大きな影響を与え、ひいては世界の安定が脅かされる。だから自衛隊を派遣することは日本自身の利益でもあると同時に、同盟の要諦だ」という説明を首相みずからがきちんとしなければならなかった。
手嶋 小泉前首相だけでなく、外務官僚にも大きな責任があります。「大量破壊兵器」「アルカイダとのつながり」というイラク攻撃の大義名分が誤っていたのにもかかわらず、当時の竹内行夫事務次官に代表される外務官僚が、一昔前の湾岸戦争時の国連安保理決議、いわば“古証文”を拠り所にして、急場を凌いだ。実際、この安保理決議は政府がイラク戦争を支持する公式な拠り所となったのです。
数カ月前に、「サンデープロジェクト」で武部勤さん、冬柴鐵三さんという自公両幹事長(当時)とご一緒したのですが、二人ともイラク戦争について、旧条約局の課長補佐が書いたような「古証文」を丸暗記したかのごとく答えていました。武部さんには同じ道産子のよしみもあるので、僕は親切にも放映中ではなくCMの時に忠告しました。そんな言い訳はやめて、「古証文」を生み出した外務官僚を叱るべきだったね。
実際にイラク戦争前、日本の支持を取り付けようとしたアーミテージは耐え難い思いをしたと言っていました。「同盟国として支持してくれるか」と>訊ねると、竹内事務次官らは「それは政治家が決めることだ」と言い逃れる
― 実際は旧条約局の官僚がすべて決めているのにね。そうやって逃げているうちにアメリカがイラク攻撃を始めると、すかさず用意していた答弁要領を取り出して言いつくろう。かつては「憲法」を盾にして、「同盟」の義務を果たさなかった日本外交は、今度は「国連決議」に逃げ込んでいるのです。
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