それ故イギリス本国は糖蜜法を定めてフランス領の糖蜜を使ったラム酒に法外な関税を課した。これがニューイングランドの植民者たちの反抗心を煽り、アメリカを独立に向かわせる。ラムこそ「強烈な革命の香り」となった。著者は建国の父ジョン・アダムスの手紙を引いている。
「糖蜜がアメリカの独立に不可欠な要素だったと認めるのを恥じる必要はない。たくさんの大きな出来事が、もっと小さな原因から起きているのだから」
そのころヨーロッパでもコーヒーが旧弊な社会秩序を揺るがそうとしていた。パリの街角に出現したカフェに、ルソー、ディドロそれにアメリカから来たフランクリンなどの思想家たちが集い、自由と平等について熱く語り合っていた。カフェはフランス革命を育くむ揺りかごだった。一方、ロンドンのコーヒー・ハウスにも商売人たちが集い、ひそひそと語り合っていた。誰もがコーヒー一杯を注文さえすれば、全世界から大英帝国に吸い寄せられてくる情報(インテリジェンス)に接することが出来た。やがて海事関係者が多く集まる店は、世界の海を支配するロイズ協会の母胎となり、株の仲買人たちの店は、証券取引所に変貌していった。近代資本主義の黎明を告げる金融革命は、コーヒーカップのなかから生まれたと著者はいう。
6つのグラスに注がれた6つの飲み物こそが歴史を突き動かした―
。著者はこう言い切って、アメリカの世紀の到来を告げたドリンク、コカコーラを最後に登場させる。コカコーラによる植民地化を意味する「コカ・コロナイゼーション」こそ自説を裏付けていると説得にかかる。読者はその鋭い見立てに思わず肯き、類い希な歴史の語り部に魅了されてしまう。
本書が秘めるパワーはその優れて今日的な関心にある。近代民主制と資本主義を産んだコーヒー・ハウス物語は同時にそこに集った人々のドキュメントでもある。現代のインターネット・カフェが人間同士の触れあいを生まないとすれば、新たな歴史の幕はあがらないだろう。互いの眼を見据えながら情報をやりとりする場面がすっぽりと抜け落ちているからだ。大都会では地代の高騰と大型チェーン店の出現で喫茶店文化が日ごと衰えている。コーヒーカップを手にした人々の触れあいこそ、新たな歴史を切り拓くと著者は語りかけている。
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