― “記者魂”がすでにあったわけですね。
手嶋 ジャーナリストになるとはまったく考えていませんでした。実は当時、大学生なのに社会人のような生活をしていましてね。中小炭鉱を経営していた父が亡くなり、財産の切り売りの状態がしばらく続いた後、母に言われて株に投資してみたら、当たって、えらくお金持ちになっちゃった。だからしばらくぶらぶらしていたのですが、次第に隣家への体裁が悪くなってきましてね。そんなとき、英BBCに勤めるチェコの亡命詩人が主人公のスパイ小説をたまたま読んで、面白いなあと思った。日本のBBCといえばNHKだ。一、二年お勤めできれば体裁もいいかな、なんて考えて受験しました。本当にいい加減な話で申し訳ないのですが ( 苦笑 ) 。
― 意外な”告白”です。
手嶋 何といいますか、もともと社会のあぶれものなので、NHKでも隅っこの方で穏やかにしているべきだ、という気持ちがどこかにありましたね。ひょっとしてぼくが普通だと思ってしたことも、NHKという組織にご迷惑をかける結果になるのじゃないか。そんな心配を頭の片隅でいつもしていました。
― NHKの”水”は肌に合いましたか?
手嶋 個人的な経験を一つお話ししましょう。NHKのドキュメンタリー番組では、取材は記者が行うが、視聴者に訴える「地の文」はディレクターが担当する“おきて”になっています。でも、ぼくは同僚とともに、あえて現場の記者が「地の文」を担当する番組を制作した。取材の過程がよくわからない第三者が介在すると、無用な時間がかかり、本質がゆがめられて視聴者に伝わることがあるからです。ぼくのやり方はNHKという組織にとって“おきて破り”だったかもしれません。でも、ジャーナリズムは時には組織の論理には服さないものだ、と思います。
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