手嶋龍一

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「衰弱するニッポン外交」

 ニッポン外交衰えたり――。民主党政権の対外交渉を見ていているとそう断じざるをえない。アメリカ政府が沖縄に配備しようとしている新型輸送機は、タカの一種であるミサゴを愛称として採った。猛禽類「オスプレイ」はその鋭いくちばしでいま、日米の同盟体制を食いちぎろうとしている。その危険をアメリカに悟らせ、普天間基地へ配備を強行すれば、日米同盟をゆるがす事態になるとなぜ説得できないのか。いま外務・防衛当局が進めている対米折衝は外交の名に値しない。
「オスプレイの安全性が確認されない限り飛行させない」
 野田政権が繰り返す型通りの答弁なのだが、納得する人はいないだろう。技術調査団をアメリカに送っても、米側はオスプレイの安全性に問題なしと回答するに決まっている。日本への配備に「ノー」という権限がないため、その場凌ぎの言い逃れに終始しているのである。在日米軍が日本と極東の安全保障を担っている現実は認めても、今回のオスプレイ配備は性急にすぎる。
 民主党政権は普天間基地を辺野古に移転させる日米合意を事実上反故(ほご)にして日米同盟に亀裂を広げてしまった。その一方で、オスプレイの普天間配備を認めれば、今度は在日米軍基地の74%を受け入れてきた沖縄を決定的に離反させてしまう。東アジアの安定を担保してきた日米同盟をこれ以上傷つけてはならないと、日本の外交当局はアメリカ側を説き伏せるべき時なのである。

 しかしワシントンの情勢分析も交渉にあたる人材も十分でない現状では、オバマ政権を動かすことなど望めない。
 こうしたニッポン外交の衰弱ぶりは、尖閣諸島や北方領土をめぐる折衝にも現れている。さらにはウナギの取引にも及び始めている。アメリカ政府は、絶滅の恐れがあるとしてウナギをワシントン条約の規制種に加える意向だ。
 ウナギの稚魚は世界的な品薄で、規制が実施されれば価格の高騰に拍車がかかるだろう。これに対して郡司彰農水省は「ウナギの資源は枯渇しているわけではない」と反論し、不漁の原因をまず調査すべきだとしている。
 ウナギの取引を規制する動きはアメリカで早くからあったのだが、日本はここでもワシントンでの情報収集力の弱さを露呈してしまった。
 このように日本を取り巻く大国から強大な力で押し込まれずるずると後退していけば、国民の間に不満が鬱積する。その果てに不健全なナショナリズムが頭をもたげてくる。この国に強権的で軍事力を頼りにする政治が芽生えてしまえば、その奔流を押しとどめるのは容易ではない。
 それゆえ日本の政治指導部は、凛とした交渉姿勢を貫き、堅い意志で国益を守り抜く外交を繰り広げていかなければならないのである。



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