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自民圧勝で変貌する日米同盟
総選挙での高市圧勝が日米同盟の岐れ目になった――現代史家が後年そう記述する日が来るかもしれない。それは一般に指摘されている単なる“政治の右傾化”とは異なる光景になるだろう。たしかに高市総理は自民党右派を代表する政治家であり、故安倍晋三氏の後継者を自任している。そのひとが率いる自民党が衆議院で3分の2を占める圧勝を飾り、高市総理も会見で悲願の憲法改正を目指すと表明した。だが、こうした新たな政治の潮流が、日米同盟を一層精強なものにし、日本列島を取り巻く安全保障環境に資するとは必ずしも限らない。
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高市総理とトランプ大統領は来月19日に日米首脳会談を行う。高市総理はこの会談で日本の防衛費を大幅に増額することを伝え、台湾海峡の有事や朝鮮半島の有事に積極的に取り組む意向を伝える見通しだ。
一方で“ドンロー主義”を標榜するトランプ大統領は、南北アメリカ大陸を収める西半球を米国の絶対的な権益と考え、欧州や東アジアの安全保障はそれぞれの同盟国が自ら担っていくべきだと求めて安全保障分野の“アメリカ・ファースト”が際立っている。そんなトランプ流のかかる兆候は、台湾有事を巡る対応にも現れている。高市総理は、台湾海峡の封鎖が武力発動を伴うものなら「存立危機事態」にあたるとして、自衛権を発動すると国会で答弁した。中国の習近平政権は高市答弁に激しく反発して取り消しを求め、日中関係は冷え込んだままだ。だが、トランプ大統領は、台湾問題でいたずらに緊張を高めないよう高市総理にクギを刺し、日本の立場に必ずしも同調しなかった。習近平政権に対して、日米首脳会談の後、北京で行われる米中首脳会談で、米政府と連邦議会が超党派で堅持してきた「台湾問題の平和解決」を再確認し、台湾を防衛するため武器の輸出を続ける意向を明確に伝えるのか、トランプ大統領の対応は不透明なままだ。
戦後の日本は、圧倒的な軍事力を持たなかったため、外交の柱に国連や国際法を据え、併せて日米同盟によって東アジアと自国の安全保障を図ってきた。だが、米国、中国、ロシア、イスラエルといった軍事強国はいまや国連や国際法を尊重せず、剥き出しの力の政策を推し進めている。軍事力の面ではミドル・パワーだった戦後日本が依拠してきた国連や国際法は急速に存在感を喪っている。それだけに日米安保体制は台湾有事と朝鮮有事に備える得難い盾になっている。だが、“アメリカ・ファースト”のトランプ政権が緊迫する東アジア情勢にどこまで関与する意志があるのか定かではない。それだけに高市総理を支える保守層には、憲法改正と自主武装を求める気分が伏流している。保守強硬派のなかに台頭しつつある核武装論もその顕著な兆候だろう。傑出した日本政治の分析者、マイク・モチズキ教授は「日本の防衛力の増強は必然的に日米同盟からの離脱の芽を育む」と喝破した。高市総理は、防衛力の増強と日米同盟の強化に潜むディレンマにやがて直面し、岐路に立たされる日がくるだろう。
手嶋龍一
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東アジアの深層で生起する異変をいち早く察知するべく動く情報機関、それが公安調査庁だ。中露朝が核戦力を背景に日本を窺う実態を、現職のインテリジェンス・オフィサーが初めて実名で明らかにした。ウクライナとパレスチナの戦争に超大国米国が足を絡め取られる間隙を突いて、中露朝が攻勢に転じている。日本をとりまく安全保障環境の激変に警鐘を鳴らす。