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『鳴かずのカッコウ』文庫版 発刊のお知らせ
2024年は何という災厄と共に幕を開けたのでしょうか。元日には能登半島一帯を阪神淡路大地震や東日本大地震クラスの振れが襲いかかり、それに続いて翌二日の夕方には羽田の東京国際空港の滑走路上でJAL機と海保機が激突炎上する事故が追い打ちをかけました。二つの災害には共通点があります。災厄に見舞われて、救助の先頭に立たなければならない公的機関がメディアを含めて必ずしも十分に責務を果たすことができず、その一方で現場に居合わせた人々が自らのことを顧みず助け合った事例が数多く報告されています。新聞のコラムに詳しく書きましたのでお読みください。
さて、新しい年の初めにインテリジェンス小説『鳴かずのカッコウ』を小学館文庫として上梓しました。
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これは国際港湾都市KOBEに新米の公安調査官として、半ば間違って着任した青年を主人公にした物語です。物語はウクライナ西部の古都リヴィウから幕をあげます。様々なストーリーを読み慣れている読者の方々にもいささか奇異な印象を与えたかもしれません。二年前に単行本として出版した時には、まだウクライナ戦争は起きてはいませんでした。
インテリジェンス小説は、現実に起きた出来事を素材に膨らし粉で加工した物語ではない――そう述べたのは、戦後の日本に突如として降臨した“外務省のラスプーチン”こと佐藤優さんでした。物語が書かれた時にはフィクションのように思えてもやがて事実に染め上げられていく。それこそが、インテリジェンス小説、精査された情報を拠り所に書かれた物語だというのでしょう。私の小説がそんな条件を満たしているかどうかは、読者が決めることです。著者としてはただ楽しんでいただければ幸いです。
今回は一線の政治ジャーナリストとしてご活躍の後藤謙次さんが解説の筆を執ってくださいました。まさしく達意の文章でこの本を始めて読む若い方々を誘うこの上ない道案内となっています。後藤解説から読んでもらっても、本編の興が殺がれる心配はありません。是非ご一読ください。
手嶋龍一
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- 『鳴かずのカッコウ』
- 小学館文庫
- 2024/01/11発売
ウクライナ・リヴィウから幕開けする本作は、後のロシアによる同国侵攻を予言していると、単行本刊行後話題となった。ベスト・セラー「ウルトラ・ダラー」シリーズスピンオフ。