手嶋龍一

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武漢コンフィデンシャル

「武漢コンフィデンシャル」

武漢コンフィデンシャル

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 前作『鳴かずのカッコウ』で、あのスティーブン・ブラッドレーが、久々に皆さんのもとに帰ってきました。『武漢コンフィデンシャル』は『ウルトラ・ダラー』『スギハラ・サバイバル』に続き、スティーブンが主役として活躍する書下ろしのインテリジェンス小説です。

 イギリス秘密情報部の叛逆児スティーブンはいま、東アジア政局の震源地、香港に居を構えています。『ウルトラ・ダラー』以来の盟友、米国のマイケル・コリンズと手を携えて、21世紀の国際社会を揺るがせる新型コロナ・ウイルス誕生にまつわる謎に挑みます。

  ”米国諜報界の渡り鳥”マイケルは、久々に骨休めをしようと、21を数える米情報機関のなかでも最も小さな情報組織、NCMI(国家医療情報センター)に移籍します。ワシントン郊外のフォート・デトリック陸軍基地にあるNCMIこそ、超大国アメリカの知られざる生物・化学兵器の策源地でした。そして皮肉なことに、マイケルはこの新しい職場で未曽有のバイオ情報戦に遭遇することになるのです。

 ふたりの盟友は、新型コロナ・ウイルス発生につながる遺伝子操作をめぐって、米国の研究機関が「習近平の中国」に巨額の資金と最新技術を提供していた事実を暴きだしていきます。

 『武漢コンフィデンシャル』は、タイトルが示すように、長江の畔に広がる要衝の地、武漢が重要な舞台となっています。この地で無頼の徒と美しい娼妓の孫として生を享け、いまは香港で広東料理店を営む麗人マダム・クレアにスティーブンは心惹かれていきます。そして、物語の陰の主役である稀代の名品”汝窯の皿”を巡って、ふたりの運命はふたつの彗星が一瞬すれ違うように交錯します。

 インテリジェンス小説の性として、本作では一見何の脈絡もないように見える出来事が、長江が支流を集めて一挙に大海に注ぐように、終盤に至って急展開を見せます。あまり先を急ぐことなく、読み進めていただければ幸いです。

 コロナ禍で、なかなか海外に出かけることの難しい時節柄、せめて物語の中で、スティーブンやマイケルとともに、香港、ワシントン、メルボルン、タスマニア、雲南、武漢、ブエノスアイレスへの旅を楽しんでください。

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