手嶋龍一

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ノンフィクション作品

知の武装―救国のインテリジェンス―

過度な右寄りに警鐘

 インテリジェンスとは、俗にいう〝スパイ活動″で得られた情報を指す。戦後日本では敗戦の後遺症から否定的なイメージで見られ、実際、国家としてこれを統合的に扱う組織すら整備してこなかった。
 しかし近年日本を取り巻く国際環境が大きく変化しつつある。米国の国力が減退するなかで、尖閣諸島問題などをめぐり、東アジア情勢がきな臭さを増してきた。それを受けて国家安全保障会議(日本版NSC)の整備が急がれ、実際にその根拠となる特定秘密保護法も国会で成立した。いまだに軽視されがちなインテリジェンスの意義について気鋭の情報通が対談形式で解説したものが本書である。
 本書はもちろんNSCの必要性を説いている。しかし一部保守派に見られがちな「インテリジェンス万能論」などには釘を刺し、安倍政権が先の大戦に関してどちらかというと正当化に流れがちな傾向についても、国際力学に「鈍感だ」として警鐘を鳴らしている。つまり、「過度の右寄り」とは一線を画しているわけで、それが本書の説得力を増している。
 また具体例として、飯島勲・内閣官房参与が今年5月北朝鮮を訪問した際の会談写真から様々なことを読み解いたり、英米のスパイ小説や情報機関の成り立ちの違いから、インテリジェンスの歴史的起源や背景について説明したりするなど、読者を飽きさせない趣向がちりばめられている。
 ただ惜しむらくは、アジア政治を専門とし、中東にも関心を持つ評者から見て、きわめて親日的なイランに対して手厳しい見方をしていたり、安倍外交の主要なターゲットになっている東南アジア関係についての言及があまり見られなかったりする点である。
 しかし、それで本書の価値が減じるわけではない。民主主義国家韓国を独裁体制の中国と切り離して処理すべきだとする意見は評者も大賛成である。いずれにしても本書は、インテリジェンスの要点を簡潔にまとめていて、貴重な一冊である。

(評者:酒井亨・金沢学院大准教授)

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