手嶋龍一

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鳴かずのカッコウ

「鳴かずのカッコウ」

無名の諜報機関に降臨した若者

鳴かずのカッコウ

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 旧知の英国人が一か月に及んだ日本滞在を終えて帰国するという。その前日、皇居の濠を望むホテルのラウンジで雑談をしていた。初めての日本では随分苦労したらしいが、この国はとても気に入ったらしい。そんな彼が突然真顔で一つだけ教えてほしいと言う。

 「戦略上の要衝に位置する日本ほどの大国が対外諜報機関ひとつ持っていないのは本当なのだろうか」

 確かに戦後の日本は、海外に情報要員を配するMI6やCIAのような諜報機関は持たなかった。情報(インテリジェンス)を武器に幾多のグレート・ゲームを戦い抜いてきた英国人にとっては容易に信じられない話なのだろう。

 そのことを、果たしてどう説明したものかと一瞬言い澱んだ。そして濠の向こうの皇居に視線をやった。

 すると、その筋に連なるひとは、突然、手を差し伸べ、「そうだったのか」と言わんばかりに頷いた。内閣や外務省に属する諜報機関はないが、天皇に直属する機関はあるのか――どうやらそう受け取ったらしい。

 咄嗟に否定しようとしたのだが、嘘を教えた訳ではない。本人がそう受け取ったのなら、まあいいかと沈黙することにした。

 彼のような情報のプロフェッショナルなら、日本ほどの国家が生き抜くための「情報の触覚」を持たないなど信じられないだろう。だが、戦後のニッポンは、核兵器や空母機動群などの鋭い牙はもとより、対外諜報機関という長い耳も持たなかった。まことに「不思議の国」だったのである。そんなニッポンに突如降臨したのがこの物語の主人公、梶壮太だった。

 この超脱力系の若者は、高い志を立てて情報士官を志願したのではない。安定志向のゆえに公務員を目指し、「公安調査庁」なる役所に偶々職を得たにすぎない。「最小にして最弱の諜報組織」、そして行革の度に取り潰しの危機に遭ってきた無名の、だが実在の機関だ。

 ところで、筆者は十数年に及んだNHKの特派員生活を終えて帰国し、本邦初と評されたインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』、その姉妹編『スギハラ・サバイバル』を出版した。中国や北朝鮮に熾烈な情報戦を挑む、これらの物語でも、日本は重要な舞台となった。とはいえ、情報戦を実際に戦ったのは英米の情報戦士だった。当時の日本には、共に戦うべき同志は見当たらなかったのである。それから十年余の歳月が流れ、極東の島嶼列島にもようやく希少種の「カッコウ」があらわれた。この鳥はホオジロの巣などに卵を託して育てさせる習性をもつため英国ではスパイの隠語としてしばしば使われる。

 海洋強国を呼号する中国が台湾海峡や尖閣諸島を窺ういま、国際港湾都市KOBEに舞い降りた「鳴かずのカッコウ」こそ、主人公の公安調査官だった。超脱力系ともいえる壮太だが、図抜けた記憶装置と分析力を秘めている。この国はいま、ようやく自前のメジャー級の情報士官を得て、自前のインテリジェンス・ウォーを戦おうとしている。彼が図らずも掘り当てたのは度肝を抜くような情報のダイヤモンド鉱脈だった。

書評

若林 良 週刊朝日 2021年7月9日号
「週刊図書館」
九段太郎(公安調査庁調査官) 週刊新潮
「ヒト、モノ、カネなし?! 異色のインテリジェンス小説」
橋本五郎 読売新聞書評 2021年5月
「壮絶な諜報現場描く」
谷口智彦 月刊HANADA 6月号
「谷口智彦のこの一冊」
遠藤仁誉 日本海新聞書評 2021年4月
「国際舞台に生気ある人間模様」
望月迪洋 新潟日報書評 2021年4月
「ハム庁 諜報の最前線へ」
後藤謙次 静岡新聞書評 2021年3月
「日本社会への警告の書」
山内昌之 西日本新聞書評
「地味目な公安調査官巣立つ」
野嶋剛 フォーサイト
「諜報会の華麗なる仮面劇」
後藤謙次 小説丸
「近未来の国際社会に於ける日本の見取り図」
渋谷和宏 J-cast書評 2021年3月
「マンガオタクが諜報戦に?! 」
佐藤優 毎日新聞書評 2021年3月
「今週の本棚」
石井光太 熊本日日新聞 2021年2月
「巨大情報戦の最前線描く」
明石寛治 北國新聞 2021年2月
「茶室で高度な情報戦」
岡部伸 産経新聞 2021年2月
「諜報の日英同盟」で活躍

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